東大と、彼と私と 1

私が高1のとき使用した教科書の裏表紙を見てみると、必ずと言ってもいいほど書いてあるもの。それは自己への叱咤というか、励ましの言葉。
「東大目指しちゃ、罪ですか?」「○○(私の苗字)です、頑張る人はいますか」と言ったもの。自分への、何に対する叱咤や励ましかと言うと、そこにある通り東大受験に対してだ。ときたまそれを見るたび、歯がゆいような、甘酸っぱいような気持ちになる。今となっては地元の国立大を目指す受験生、2年前はこんなことを平気で口外していたのかーと思うと恥ずかしく感じる。


私が東大を目指すようになった理由、それは当時メールやメッセンジャーで付き合っていた、とある文一出身の男性の影響による。まだ、どこのチャットも18歳以下を締め出していなかった平和な頃。数々の悩みを抱えていた私は悩み相談室と銘打ったチャット部屋を見つけた。これに入って、相談してみようか。どうせ赤の他人だし・・そんな軽い気持ちで入室したところ、相談人を請け負っていたのが彼だった。聞いてみると法学部の学生だと言う。私の悩みは法律も多少関係する類だった。これは聞いてもらって、何らかのアドバイスをもらおう・・そう思って、悩みを全部ぶちまけた。彼がその悩みを信じていたかどうかは微妙だが、とにかく聞いてもらえるだけで私の肩の力は抜けていった。そして感じた。「この人ともっと話したい、この人をもっと知りたい」と。
ちょうど夏休みということもあり、私は連日通うようになった。初めの2、3日こそ悩みばかりを打ち明けていたが、何度となく足を運ぶうち、他愛のない話をするようになった。そのうち彼の通う大学に興味を持った私は尋ねてみた。「ねえ、○○(彼のHN)さんってどこの大学に通っているんですか?」「えーひみつひみつ」「いや、教えて下さいよー減るもんじゃないしー」こんなやり取りのあと、いくつかのヒントを得ることが出来た。入学者数3000人余り、入学式は日本武道館で挙行、などなど。しかし当時の私は今と比べて東大に対する意識が薄く、そんなヒントを貰っても東京大学をイメージすることが全く出来なかった。だから、しびれを切らした彼が、自ら東大だと打ち明けたときはただただ、驚くしかなかった。あの知の頂点・東京大学!?あなたが、そこの法学部生?――――このときからだろうか、私の中で、東大の輪郭がはっきりしてきたのは。